「声の余韻」ツインソウル#004

 新しい仕事を始めて一週間、先輩から曜日ごとの仕事を教わり、この日は
土曜日の仕事を初めて一人でやることになりました。別館一階の課に入ると、
右奥に社員が二人、立ち話をしていました。二人に掃除機をかけることを知
らせると、一人はすぐに中庭側の出入り口に向かって歩き出し、もう一人は
その場で私の方へ顔を向けて、
「ぼくのところはこのままで」
こう言って、それから先に出て行く一人の後を追いました。途中で一度振り
返り、ちらっと自分のデスクに目をやると私のほうへ向き直り、もう一度繰
り返しました。
「その辺はそのままにしておいてください」と。 
二人が出て行った後、掃除機かけを始めます。ここの仕事はまだ一週間です。
それに肉体労働が全く初めてでかなり緊張していました。でも、この後、
二人が出て行き、一人で掃除機をかけながら急に気分が良くなったのです。
急に元気になりました。いつも元気な私ですが、さらに元気になりました。
嬉しくなりました。このときはどうしてなのか気にしませんでした。
 結婚しているので男の人には興味がなく、私の関心ごとの中に男性はいま
せん。ですから、この日の、この気分が良くなったということは、この記録
を書き始めるときまですっかり忘れていました。記録し始めるのはこの4か
月も後のことで、そのときになっても全部覚えていたのですから、これは
相当心の奥深く刻まれていた出来事だということなのですが、現実には総て
無意識にやっていたということだったのです。

(世の中にはこの会社の社員と同じ職業の人はたくさんいるのよね。
 だからその中には素敵な人というのはいるのよ)
 こんなことを思いながら課の掃除をしていました。
(前回までのあらすじ)


               episode4

 ここでの私の仕事は、勤務日数が月に10日と決まっている。平均すると
週に2~3日出勤する。3連続のこともあれば、5日間間隔が空くこともある。 
殆ど無意識だったが、私は次の出勤日から、何となくその人の姿を探し始め
た。
(今日はどこにいるのだろう? )
男の人のことが気になるなどということは結婚してから一度も無い。だから、
これはちょっと気になるだけだ、気になるだけなのよ、と自分に言い聞かせ
た。出勤の度に探したが、出勤日数が少ない上に、仕事の接点が無い、だか
なかなか見つけられなかった。どうしてその人を探してしまうのか、わか
らない。気がついたら探していた。出勤した日は毎回、決まった時刻に別館
の時刻にゴミ出しをする。なかなか会えないので時間を変えてみたが、それ
でもその人が課に居ることは無かった。二週間が過ぎた。3月半ばになり、
やっとその人らしき人を見かけた。別館の玄関で風邪で早退する新入社員に
声をかけていた。
「走るんじゃないぞ、具合悪いんだから」
多分この人だ。私はその人の顔をよく覚えていない。でも見かければ雰囲気
でその人だとわかると思った。(多分この人だ、ふーん)やっと見つかった
のだが、声はかけられなかった。用が無いのだから。この後は出会うことな
く、さらに2週間が過ぎた。3月末の出勤日。この日は社内で社員たちの移動
があり、その人も別館から本館へ移ることになった。移動が決まった社員た
ちが不要の書類を課の出入り口の仮のゴミ置き場に出している。私は何とか
その人に声をかけたいと思った。
(そうだ、出入り口に置かれた書類を処分していいかどうかその人に訊いて
みよう、そうすれば話しかけられる)
さっそく移動先の本館へその人を訪ねた。
「出入り口に置かれている書類は処分してもいいのでしょうか? 」
「あっ、そのつもりで出したんですが。わざわざすみません」
私の声に反応してその人が振り向いた。が、その人は書類の方ばかり見ていて
私の顔を一度も見ない。私は話しかけることが出来て飛び上がるほど嬉しかっ
たが、その人の方はどうだったのだろう。機械的に答えただけのように見えた。
 しかし、いつの間に覚えたのだろう、その後は、廊下で出会うと笑顔で会釈
してきた。なかなか出会えなかったのに、その人が本館に移動になったお蔭か、
よく出会うようになった。私の顔を覚えていた。(つづく)
 



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# by mimi-kity3 | 2019-05-16 19:42 | ツインソウル

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